真・女神転生IV FINAL(ファイナル)

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2016 February 19真4Fと神話世界への旅

塩田信之の真4Fと神話世界への旅
第17回 ジークフリードと英雄伝説

こんにちは、塩田信之です。毎週、『真・女神転生IV FINAL』に関係するふたつのキーワードをとりあげ、そのルーツや現代に及ぼしている要素などを深く掘り下げていくことで、『真・女神転生IV FINAL』の面白さを解読していきます。開発スタッフの談話や制作メモなどから、シナリオや設定にまつわるさまざまなこぼれ話も紹介する予定です。


第17回 ジークフリードと英雄伝説

「英雄」たちの神話

人類は大昔から「英雄」と呼ばれる存在を好んできました。指導者として人の上に立つ存在には「カリスマ」が備わっているといわれますが、この概念にも「英雄的資質」が含まれます。歴史上「英雄」と呼ばれた人物はとてもたくさんいますが、その代表的な例としては強大な国家の指導者や、世界的な宗教の創始者の名前が挙げられやすいはずです。
 例えば前者ならアレクサンダー大王やシーザーことユリウス・カエサル、人によっては『三国志』の曹操やモンゴルのチンギス・ハンを挙げるかもしれません。後者なら、イエス・キリストや仏陀ことゴータマ・シッダールタ、マホメットと呼ばれることも多かったムハンマドは外せないところでしょう。日本人ならば、「英雄」といえばヤマトタケルや聖徳太子、織田信長や坂本龍馬なども挙がってきそうです。
 さまざまな民族や国家、宗教など立場や視点が違えば「英雄」と呼ばれる人物も変わってくるわけですから、ここでは「神話的な英雄」に焦点を当ててみることにしましょう。

神話上の英雄といえば、まず思い出すのはギリシア神話ではないでしょうか。地獄の番犬ケルベロスなどさまざまな怪物を退治したヘラクレス、メデューサを倒したペルセウス、ミノタウロス退治のテセウス、トロイア戦争で活躍したアキレス、『オデュッセイア』の冒険で知られるオデュッセウスなど数多くの英雄たちが描かれています。
 強靭な肉体や魔法の力を帯びた武器や防具を持ち、怪物と戦って退治したり助けた姫を妃とするなど、典型的な「英雄らしい」イメージのほとんどがそこにあります。ギリシアの英雄たちの多くはゼウスをはじめとする神々の血縁であることが超常的能力の理由となります。こうしたイメージは、日本神話のスサノオやヤマトタケルとも共通するところですね。

より古い神話上の英雄としては『ギルガメシュ叙事詩』のギルガメシュも挙げることができます。怪物フンババを親友エンキドゥとともに倒す英雄らしい活躍ぶりを見ることができ、楔形文字で刻まれた粘土板の原文にも「彼の三分の二は神」とあるように常人を超えた半神的存在となっていますが、実在した王を神に見立てた神話的誇張としての側面が強いことは感じられます。そういう意味では、ギリシアのいち地方ともいえる小国マケドニアからエジプトやペルシアまで支配し、ヘラクレスやアキレスの子孫ともされるようになったアレクサンダー大王と同じような立場にあると言えるでしょう。

他に古い神話的英雄として有名な存在としては、『旧約聖書』に登場するユダヤ民族(イスラエル)の英雄でキリスト以前の救世主とされたダビデ王や、王以前に民族の指導者「士師」としてペリシテ人と戦ったサムソンも挙げることができそうですが、神の力を体現したり奇跡を起こしたりはするものの民族間紛争の英雄で、他にいわゆる「英雄らしい活躍ぶり」を見ることもできません。今回このコラムで取り上げる「英雄」の系譜からは外しておいた方が無難と考えます。